BCP策定メソッド

第一回 リスクの把握

皆さんの施設や事業所の災害リスクを明確にしてみましょう。

 
 はじめまして。 私は皆さんと同じように介護サービス事業に携わり、約20年の経験があります。現在、熊本地震で被災したグリーンヒルみふねに勤務しています。介護業務を通じて、熊本地震後の施設の様子や職員・ご利用者の変遷を施設の内側から見る機会をいただいています。
 また、NPO法人高齢者住まいる研究会の代表として、福祉施設の災害対応力を高めるための活動を行っています。熊本地震や令和2年7月豪雨、新型コロナのクラスターも体験しました。
 今、皆さんが一番心配されているのは、新型コロナウイルス感染症ではないでしょうか。例えば、ご利用者が熟発されたら、どのような行動を取りますか。
  BCPは、感染症や自然災害などの発生時に業務を継続するための対応マニュアルと言えます。すべての介護事業所に策定が義務付けられましたが、策定は進んでいますか。
 多くの方は悩み、迷っているのではないでしょうか。 本連載では、そんな悩みや疑問の解決を目指し、私のBCP策定の進め方をご紹介します。BCPが災害時において機能するものになるよう、独自の切り口でお話しします。
 専門的な用語がいくつか出てきますが、インターネット等でご確認いただければと思います。
  メソッドの1回目は「リスクの把撞」について、お話しします。まずは「立地と建物」のリスクを把握しましょう。皆さんの施設や事業所はどんなところにありますか。海が見える高台、自然豊かな山間地や田園地域、人口が密集する街中など、立地や環境は様々でしょう。建物も近代的であったり古民家改修型であったり、色々だと思いますが、災害時のリスクもそれぞれ異なってきます。
 以下、自治体の情報に基づくリスク把握の具体的なポイントを説明します。
 

①ハザードマップ
〜危険認識と安全確保を

皆さんは自治体の「ハザードマップ」をご存じかと思います。もちろん、 ハザードマップで自施設や事業所、避難候補の場所などは確認されていると思います。加えて、職員やご利用者の自宅、そして、その通勤や送迎ルートなども確認しておくべきです。
また、地震においては河川の橋が破損したり、建物が倒壊して通が塞がれたりする可能性があり、火災もイメージしておきましょう。風水害においては、アンダーパスなどの浸水しやすい場所を確認しておきたいところです。こうした情報を職員同士で共有しておくことで、組織内で災害への意識を高める効果があります。
 

ハザードマップを調べるには、「所在の市町村が公開している情報(Webサイトや紙面で公開)」、「国土地理院がWebサイトで公開している全国のハザードマップ情報」があります。どちらも同じ情報を基にしていますので、自分で調べやすいほうを使ってください。都道府県・市町村の境に近い場合は、国土地理院のハザードマップがおススメです。
国土地理院「重ねるハザードマップ」

 

②警戒レベルと避難
〜避難行動スタートのスイッチを見つける

風水害が予想計れる状況においては、自治体から発令される「警戒レベル」が避難行動スタートのスイッチとなります。誰がどのタイミングで、どこへ、どのルートを通って、どんな移動手段で避難するのかをハザードマップと連動させて、しつかり把握しておく必要があります。
適所系や訪問系サービスにおいては、例えば「警戒レベル3」が出た場合の対応を、ご利用前・ご利用中・送迎中・訪問中等の場面ごとに事前に避難行動を決め、関係者に周知しておきます。これがご利用者やそのご家族、職員等の命を守る準備になります。地震災害においても、いくつかのシチュエーションを想定し、対応を決めておきましょう。

警戒レベル(気象庁等が発する注意報・警報・特別警報、市町村が発する高齢者等避難・避難指示・緊急安全確保)を知るには、テレビ・ラジオ、インターネット、街の防災スピーカーなどがあります。
どれが確実なのか、という答えも難しいのですが、テレビ・ラジオ、街の防災スピーカーは見逃し聞き逃しする可能性があります。かといってインターネットを四六時中見ているわけにもいきませんし、寝ている時などは警報に気づきにくいこともあります。その場合に備えてスマートフォンの防災アプリを入れておくと、登録している地域、今居る地域に危険が迫ったときにピコーンと通知でお知らせするものがあります。有名なものとしては「Yahoo防災速報」、「NHKニュース・防災」、「NTTdocomo 災害用キット」、「au災害対策」というものがありますので、ご準備されるとよいかと思います。

 

③地域防災計画
〜各施設・事業所におけるBCP策定の基本情報

「地域防災計画」は、自治体が作成している防災計画です。聞き慣れない言葉だと思いますが、私たちが作成するBCPと深く関わることを、まずは覚えておいていただければと思います。 一般的に、地域防災計画には災害の種類や過去の災害、地震や風水害における被災想定、被災時における各種対応窓口等が記載されています(自治体により異なる場合がありますが、ホームページ等で閲覧できると思います)。もしも自施設や事業所で断水が起きたら - 給水に関してはどこに、どう問い合わせればよいか? 水道水が濁ったら? 水道管の破裂や水漏れが見つかったら? 被災により建物にヒビが入ったら? その建物の安全確認として応急危険度判定はどうするのか? そんな対応を想定しながら、自治体の窓口等への報告・連絡・相談の一連の流れをイメージしておきましょう。
 

*第一回まとめ*

今回、ご紹介したポイントを参考に、自施設や事業所のリスク把握に「見落とし」をなくし、被災想定に結びつけることが肝要です。自治体の担当部署や防災に詳しい専門家からその説明や解説、アドバイスをもらうと、さらにリスク把握の精度が高まるでしょう。
 

第一回 リスクの把握

皆さんの施設や事業所の災害リスクを明確にしてみましょう。

第二回 シナリオを描く

起こりうることを具体的に考えてみましょう。

第三回 初動を固める

発災直後の行動を整理してみましょう。

第四回 混乱期を乗り越える

初動後に発生する問題、課題を想像してみましょう。

第五回 復旧を加速する

災害関連死を防ぐために早期復旧を計画してみましょう。

第六回 システムとして機能させる

日常業務から活用させることで災害対応力、組織対応力を高めてみましょう。