BCP策定メソッド

第四回 混乱期を乗り越える

初動後に発生する問題、課題を想像してみましょう。

 
 今回は「混乱期を乗り越える」についてお話しします。 大規模災害では、様々な事象やトラブルが立て続けに起きて、その対応に追われることになります。まずは職員を落ち着かせ、状況に合わせて的確な指示を素早く出す役割が管理者にはあります。
 
 
 

①管理者機能
~管理者自身が限界を知る

 トラブル対応は、管理者がその状況を把握し、しかるべき指示を出した後、適切に処理・対応が行われたのか報告を受けるまでの一連となります。処理・解決ができない場合はこれを繰り返します。普段とは勝手が違う状況での複雑で難しい作業が予想されます。
 そんな中で管理者は、パニックにならないように自分自身をコントロールし続けなければなりません。食事、休憩や睡眠がまともに取れない心身ともに極限状態の中での意思決定等、多くのストレスに晒される状況が続きます。外部対応においてはマスコミを含め各種関係機関との連絡、支援要請やその受け入れに関しての調整業務が予想されます。
 そこで、 「初動シート」と同じ要領で「管理者の行うべき業務」を災害毎(大地震・風水害・新型コロナ等)に棚卸しして書き出すことをお勧めします。万が一、代行者が指揮を執る場合にも、この「行動シート」を活用して指示命令が円滑に行えるように準備しましょう。
 しかし、どれだけ想定範囲を広げても想定外のことが起きて来ます。そんなときにも組織が機能するための体制を平時から構築しておく必要があります。そこでお勧めしたいのが、「災害対策本部」の立ち上げシミュレーション訓練です。大地震・風水害・新型コロナ等を想定し、自分たちで描いた「災害シナリオ」に沿って災害対策本部を立ち上げてみてください。
 情報を整理するためにホワイトボードが必要、時系列・項目別に分類して書いたほうがわかりやすい、施設の見取り図があるとよい、立ち上げの必要備品を揃えておこう、などの「気づき」を訓練を通して学んでください。スムーズにいかないからこそ学びがあり、それを改善していくことが訓練を行う目的でもあります。
■行動シート記入例(地震)
管理者の行うべき業務 項目 確認
状況把握 自施設の被害(ライフライン含む)
地震規模・震源地・各地の被害
 地域の被害・火災等
 公共交通機関・道路状況・橋梁等
ご利用者 点呼・安否
ケガ
搬送
ご家族への連絡
職員(勤務中) 点呼・安否
ケガ
ご家族への連絡
動向・意向(継続勤務・帰宅)
避難判断と指示 (津波)
建物倒壊
火災
地域住民受入れ・福祉避難所開設・職員受入れ
災害対策本部立ち上げ 立ち上げ指示
備品配置・シート張り出し
情報収集・記録
(勤務外)職員の安否確認・参集指示
備品準備(指示) 発電機・蓄電池・照明器具
備蓄水・食料・資材
調理用ガス・器具
衛生用品・トイレ
行政・外部対応 自治体・各種職能団体
地域・外部関係者(建物・設備等)
地域の介護サービス事業所
ボランティア等
資金 金融機関
保険会社
(小口)現金

 

②外部関係者(ステークホルダー)
~各種手配(修理修繕・点検・検査・購入・調達等)と調整

 発災時には非常に多くの関係者との連絡調整が予想されます。
外部関係者には、衛生用品や食材等の納入業者から建物、設備、機器や備品等の購入先、リース先等が挙げられます。
 まずは「外部関係者の名簿」を作成しましょう。電話・FAX番号、住所、担当者名(携帯番号)、営業日や営業時間等を記載します。また、電話が通じない場合の適切な連絡調整方法を事前に確認しておきたいところです。
 なお、 外部関係事業所及び担当者も発災時には被災している可能性があります。それを先方にも想定してもらった上で、介護サービス事業所がいち早く復旧できないと人々の命や生活に危険が及ぶこと、私たちの事業が地域の復旧・復興においても大変重要な役割を担っていることをしっかりと理解してもらいます。非常時には優先的に動いてもらい、動けない場合についても対応・対処や対策を話し合っておきましょう。
 外部関係者はBCPのキーパーソンですから、策定に参画してもらいましょう。できれば外部関係者と互いのBCPを突合して発災時の流れを確認しておきたいところです。
 

③職員の被災
~介護現場は職員が回している。職員あってこその現場

  発災時にあってもご利用者の生活を支えたい反面、自分自身の生活環境が整わない。そんなジレンマに陥るのが現場職員です。「職員の被災」はBCP策定において軽く見積もられる傾向があります。介護現場は通常でもハードですが、災害時においては、現場業務と生活再建というダブルの負担が職員個々に重くのしかかります。熊本地震においても、自宅が停電・断水で何日も入浴できないまま、介護現場でクタクタになるまで働き、退社後に立ち寄るスーパーには必要な商品はなく、食料や水の配給にもありつけず、通勤の車のガソリン給油も長蛇の列に並ぶ状態がしばらく続いたそうです。
 施設(事業所)はぜひ、職員への支援態勢を作り、職員向けの炊き出しや支援物資の配給などを事前に検討してください。避難が必要な職員に対しては、自事業所へ家族を含めて避難を受け入れる体制と、職員自らが災害に備える意識を高めるための啓発と取り組みを推進して行きましょう。
 

*第四回まとめ*

以上、お話した3項目は、初回の「リスクの把握」に組み入れておくべきものです。「管理者」「外部関係者」「職員」が上手く稼働しなくなることを想定し、再度、「リスクの把握」を行い、そこから新たなシナリオを描き、その対応・対処と対策を練り直し、それを「初動」にまとめる。このサイクルを繰り返してBCPの精度を上げて行きます。
 BCP策定の目的は「災害対応力」を高めるところにあります。発災時における弱点といえるこれら3項目を発災前の今、補強しましょう。災害対応力は格段に高まります。
 次回は「復旧を加速する」です。
 

第一回 リスクの把握

皆さんの施設や事業所の災害リスクを明確にしてみましょう。

第二回 シナリオを描く

起こりうることを具体的に考えてみましょう。

第三回 初動を固める

発災直後の行動を整理してみましょう。

第四回 混乱期を乗り越える

初動後に発生する問題、課題を想像してみましょう。

第五回 復旧を加速する

災害関連死を防ぐために早期復旧を計画してみましょう。

第六回 システムとして機能させる

日常業務から活用させることで災害対応力、組織対応力を高めてみましょう。