BCP策定メソッド

第五回 復旧を加速する

災害関連死を防ぐために早期復旧を計画してみましょう。

 
  復旧を加速することは、「人の命」を守るために重要なポイントです。過去の災害を振り返ると、災害による直接死もさることながら、「災害関連死」に関しても十分な配慮が必要であることが見えてきます。熊本地震では「直接死」50人に対して、「災害関連死」は約4倍の218人、その内77.5%を70代以上が占めていました(2021年4月9日熊本県)。
 過酷な環境による過労やストレスと持病の悪化等が重なった結果、せっかく生き延びた命を失うのは大変に惨く辛いことです。ご利用者を災害関連死から守るためには、「事前」の取り組みがより重要です。
 

①福祉避難所と特例措置
~介護施設は避難者受け入れを前提に考えてみる

  ご利用者を災害関連死から守る方法の1つとして挙げられるのが「福祉避難所」です。
 「福祉避難所」は避難生活が長引いた際、高齢者など避難所生活に特別な配慮が必要な方とそのご家族を受け入れるために自治体が開設要請します。自治体と福祉避難所の協定を結んでいる介護施設は、開設・運営マニュアルを必ず整備してください。どのようなマニュアルを整備すべきか、避難対象者と合わせて自治体に確認しておきましょう。また、居宅系サービス事業所については、事業所が福祉避難所に指定されていなくても、ご利用者が福祉避難所の対象者となっている場合があります。
 なお、発災直後には、小・中学校等の「指定避難所」へ地域住民等は避難することになっています。しかし、夜間に発生した熊本地震では、地域全体が停電し、灯りが確保されている介護施設に避難する事例がありました。本来、指定避難所へ避難すべき人々が介護施設に集まることを想定しておくべきです。
 もう1つ、過去の大災害発生時に発令された「特例措置」を学んでおくことも重要です。熊本地震では、特例入所や超過入所に関する事例があります。ほかにも、一般の避難所での介護サービス提供や緊急ショートステイ対応も命を守る有効な手段です。様々な状況を想定して対策を事前に講ずる仕組みを作り、関係者と打ち合わせを重ねていきましょう。
 

②個別避難計画と避難行動要支援者
~施策との連動でより効果的な方向性を見出す

 自治体は大地震発生時や風水害を想定し、高齢者や障害者等の自ら避難することが困難な「避難行動要支援者」ごとに、「個別避難計画」(図表参照)を作成することが努力義務となっています。今後、自治体による個別避難計画の作成が、介護関係者を巻き込みながら進むと思います。計画作成には、ご本人とそのご家族、民生委員等のほか医療介護事業者も含めて包括的な協議と協力体制が必要です。
  私たちが介護サービスを提供しているご利用者の多くが、避難行動要支援者に該当します。例えば、デイサービスご利用中に大地震が発生した場合の、ご利用者の避難行動が、個別避難計画に含まれてくるはずです。訪問系サービスにおいては、訪問中だけでなく訪前後の個別避難計画の内容も想定し、BCP策定に盛り込んでいくことが望まれます。
■図表個別避難計画(兵庫県の例)

③連携
~介護事業所間の連携、地域や災害ボランティアの存在

 「介護サービス事業所間の連携」は言葉としては理解できるものの、実際に協定に至っているケースは少ないと思います。 個別避難計画や過去の特例措置を足掛かりに、「災害時のケアプラン」をイメージしながら協力体制を整えていきましょう。
 熊本地震では、被災されたグループホームのご利用者と職員がグリーンヒルみふねへ避難されたケースが実際にありました。ただし、大規模災害では同一地域の同時被災が予想されるので、より広域な事業所間の連携を検討します。
 また、「地域」や「災害ボランティア」も、被災した介護サービス事業所や職員の力になります。平時からマンパワーの確保には大変な苦労をされている現場は少なくないはずです。それが、災害時にはより一層、不足することは容易に想像できます。
 ですから、例えば介護サービス事業所の片づけ、清掃、整理・整頓、見守り、話し相手、支援物資の受け入れ、災害廃棄物の処理、情報伝達、炊き出し等を地域や災害ボランティアに支援してもらってはどうでしょう。
 さらに、職員も被災者なので、職員の自宅の片づけ、掃除、整理、災害廃棄物の搬出や運搬・処理、支援物資の配達、留守中の自宅の見守り、被災に関する申請書類の作成代行や提出、地域や避難所の情報収集とその伝達等を支援してもらうことも考えられます。
 介護サービス事業所が早急に復旧、復興するためにも、地域や災害ボランティアの支援を活用した「職員支援プログラム」をぜひ、準備してください。大規模災害では避難生活が長引くケースが多数あります。事業所として被災職員をしっかりとサポートしましょう。
 

*第五回まとめ*

 繰り返しとなりますが、復旧を加速することは、「人の命」を守るために重要なポイントです。待っていても復旧は滞るばかりです。平常時の準備から復旧加速を意識することが大切です。
 次回は最終回「システムとして「機能させる」です。
 

第一回 リスクの把握

皆さんの施設や事業所の災害リスクを明確にしてみましょう。

第二回 シナリオを描く

起こりうることを具体的に考えてみましょう。

第三回 初動を固める

発災直後の行動を整理してみましょう。

第四回 混乱期を乗り越える

初動後に発生する問題、課題を想像してみましょう。

第五回 復旧を加速する

災害関連死を防ぐために早期復旧を計画してみましょう。

第六回 システムとして機能させる

日常業務から活用させることで災害対応力、組織対応力を高めてみましょう。