BCP策定メソッド

第六回 システムとして機能させる

日常業務から活用させることで災害対応力、組織対応力を高めてみましょう。

 
 さて、早いもので最終回となりました。
 
 
 
 
 

①「災害時情報共有システム」
~報告や支援要請はシステムによって集約される~

  被災時に被害状況等を行政に報告する仕組みがあることを、ご存知ですか(図表参照)。これまでは電話やFAXで被害状況等を国や県、自治体や各種団体等にそれぞれ報告していました。被災直後の混乱を考えれば、同じような報告に多くの時間を取られるのはもどかしいものです。今後は国と自治体が連携する「災害時情報共有システム」の構築が期待されます。
 一方、地域や近隣の介護サービス事業所間で、災害時に共有しておきたい情報には何があるでしょうか。例えば「ショートステイの空き情報」「デイサービスや訪問介護の稼働情報」等があります。発災直後から、これらの情報を多くのケアマネジャーが同時に必要とします。クラウド等の適切な場所を設けて情報を集約・確認できる仕組みがあると、災害時には大変、重宝するはずです。
人的被害の状況 人的被害なし/あり 必須
 負傷者 ●●人 任意

  重傷者(医療機関への搬送又は受診が必要) ●●人
  軽傷者(医療機関への搬送又は受診が不要) ●●人
  死亡者 ●●   行方不明者 ●●人
建物被害の状況 被害の規模 被害なし 必須
軽微な被害あり (推定被害80万円未満)
重大な被害あり (推定被害80万円以上)
被害の内容 建物損壊 全壊/大規模半壊/半壌/一部損壊/未定 任意
浸水被害 床上浸水/床下浸水
雨漏り被害 その他
建物被害の内容・建物被害があった場所等の詳細
避難・開所の状況 入所施設 避難の必要性なし/あり 必須
 避難先の確保が困難 任意
 避難先を調整中
 避難中
  避難先施設の所在市町村(●●県●●市)
  避難先施設種別 他施設/避難所/病院/その他
  避難先施設の名称 (●●●●●)
 避難の状況の詳細
入所施設以外 支障なし(開所)/支障あり(閉所中) 必須
 代替受入先なし/調整中 任意


 代替受入先あり
  代替受入先施設の所在市町村(●●県 ●●市)
  代替受入先施設の名称(●●●●●)
開所の状況の詳細
必要な人数・状況等の詳細 介護職員/その他の職種 看護師等)/ボランティア 任意
必要な人的支援の状況
厚生労働省資料を一部編集

 

②「未来を取り入れる」
~BCPからBCMそしてBCMSへの発展~

 第5回で触れたように、福祉避難所へ対象者が、直接避難できる態勢作りなど、福祉防災の新たな方向性が次々に示されています。BCP策定の義務化もその1つです。しかし、BCPを作ったから大丈夫、とはなりません。そのBCPがちゃんと機能するかを確認するための研修や訓練(シミュレーション)の実施も義務付けられているところです。
 さらにその先に、業務継続をマネジメント(BCM)と捉え、そのシステム(BCMS)を構築する流れが存在します。 できるだけBCP策定段階から「マネジメント」と「システム」を念頭に置き、策定作業を進めましょう。そのために不可欠なのは「人材」です。業務継続をマネジメントしさらにシステムとして構築できる人材をしっかりと育成していくことが大事です。
 なお、初動対応から混乱を乗り切り、速やかな復旧を経て通常営業に至る一連のマネジメントや、そのマネジメントをシステムとして運用できる態勢まで作り上げることは、小さな介護事業所には困難と思われるかもしれません。しかし、ICT等を活用すれば、決して不可能ではないと思います。災害に立ち向かうには、マネジメント意識やシステム作りが欠かせません。技術進歩を快く受け入れる柔軟性が今後、私たちの手助けになるでしょう。
 

③BCPをシンプルに捉える
~平時と非常時のマネジメントを重ねてみる~

  BCPのポイントをシンプルにまとめると、「被害の最小化」と「復旧(事業再開)の最速化」です。とはいえ、BCP策定には多くの手間とストレスがかかり、担当者は恐らく疲れきってしまうでしょう。研修や訓練を熱心かつ継続的に行う情熱は、職員も持ち合わせていないでしょう。そんな中でも、やがて訪れる災害に備える重要性を各自がしっかり認識するには、災害をシンプルに定義する必要性があります。
 たとえば、災害を「日常業務で起こる介護事故等の延長線上にあるもの」と考えてみてはどうでしょう。日常業務においても、日々何らかの痛手を受けることがありますが、それを修復し、今の業務を継続しています。
 災害が発生した場合も、痛手を受ける→業務に支障をきたす→修理・修繕して組織が機能するように整える、という流れは同じです。ただし、災害というディープインパクトに対しては、事前対策も含めて組織の災害対応力を高めることが必要になります。つまり、「組織対応力」が試されるわけです。
 一方、BCPを通じて組織対応力が高まれば、職員間の連携や信頼関係、思いやり、協力や助け合いが組織の中に醸成されます。必然的に日常業務においても円滑なオペレーションが叶うのではないでしょうか。
 最後に、どうしても忘れてほしくないことをお話しして終わります。 BCPは所詮計画でしかありません。研修や訓練を重ね、どんなに素晴らしいBCPを作っても、それを実行するには「職員」の人数と能力が必要です。つまり、実際の災害現場でBCPを遂行できる「人」がいてのことです。
  いずれ多くの介護事業所が災害に遭遇すると思います。そのときに、ご利用者の命を守るために職員の命が危険に晒される、事業所の復旧は進むが職員個人の復旧は進まない、といったことになってはいけません。職員だけに責任や負担を強いるBCPではなく、職員を中心に据えたBCPです。この視点で再度、策定に取りかかっていただければ、筆者としてこの上ない幸せです。
 

第一回 リスクの把握

皆さんの施設や事業所の災害リスクを明確にしてみましょう。

第二回 シナリオを描く

起こりうることを具体的に考えてみましょう。

第三回 初動を固める

発災直後の行動を整理してみましょう。

第四回 混乱期を乗り越える

初動後に発生する問題、課題を想像してみましょう。

第五回 復旧を加速する

災害関連死を防ぐために早期復旧を計画してみましょう。

第六回 システムとして機能させる

日常業務から活用させることで災害対応力、組織対応力を高めてみましょう。