BCP策定メソッド
第二回 シナリオを描く
起こりうることを具体的に考えてみましょう。
皆さんの施設(事業所)が大地震に見舞われたとき、どのような状況に陥るのか具体的に想像したことはありますか。書庫が倒れる、パソコンが床に落ちで破損する、停電や断水、職員が落下物でケガをする。状況によっては避難の必要性に迫られるかもしれません。
しかし、起こりうる事象やトラブルを具体的に書き出してみようとすると、意外に難しかったりします。そんなときに参考にしたいのが、福祉施設における「過去の災害」です。
①「過去の災害」と被災イメージ
~実際に過去の災害で被災施設はどのような状況に陥ったか~
福祉施設の講演等や書籍も有効です。災害は誰しも体験したくはありませんが、リアルな被災体験談を通じて自施設が被災したような疑似体験ができます。
また、福祉施設を舞台に作成された防災ゲーム等を体験するのも有効です。災害をリアルにイメージできるものにどんどん触れ、さらなる災害準備の重要性を認知しましょう。
施設内の仲間と防災ゲームを通じて疑似体験をすることで、各々の想いや考え方が明らかになることもあります。
KIZUKI~災害想定ゲーム~のご紹介
避難所運営ゲームHUG
②「最悪の想定」
~想定外を想定し枠の中へ~
例えば、大地震が発生したとすると、「建物が壊れる」「建物倒壊の危険性があれば安全で適切な避難場所へ避難する」「火災発生」「ご入所者が階段から転げ落ちて骨折」「通行に支障があり避難に送迎車が使えない」といった具合に、起きて欲しくない究極の状況を思いつくだけ想定して行きます。
またハザードマップで確認した内容(津波・土砂崩れ・液状化等)や自治体の被害想定も加えます。「電気・ガス・水道がストップする」「それが真冬」「深夜で夜勤者しかいない」「地域の住民が避難してくる」「職員の多くが被災して出勤できない状況が続く」などと想定していきます。
おおよそ想定が済んだら、それぞれについて、どのような事象やアクシデントが連鎖して起こってくるか、詳細に考えていきます。例えば、「フロアの大きな窓ガラスが割れた」とします。大規模な災害が発生した場合には、修理を依頼してもなかなか来てもらえません。割れた状態で放置したら、雨や風、熱気や寒気、ホコリ、虫、煙や悪臭、騒音、防犯面での不安、割れたガラスでご利用者や職員がケガをして大量出血…窓ガラス1枚割れただけで、さまざまなアクシデントが考えられます。
③「対応と対処・対策を導き出す」
~機動力を高めて素早い対応・対処、適切な対策でダメージを最小化していく~
そう考えていくと、「重要な場所の窓ガラスには飛散防止フィルムを貼り付ける」対策を事前に施しておこう、となるわけです。 どんな不具合が生じるのか、できるだけ具体的に考えてみることで、適切な対応や対処・対策が導きだされます。
今回、オリジナルのシートをご紹介しますので、いろいろな想定の下で、対応・対策までのシナリオを描いてみてください。
どうなる | その結果 | ⇒何を使って何をするか(対応) | 何をしておけばよかったか | ⇒今後に備えて何をするか(対策) |
①建物等損壊 | 窓ガラスが割れた。熱気や冷気、埃、虫などが入ってきた | 一旦、段ボールを使って窓を塞いだ | 窓ガラスの破損防止 | 飛散防止フィルムを貼っておく |
②断水 | トイレが流せなくなった | 簡易トイレでの排泄 | トイレが流れない場合の代替手段の準備 | ポータブルトイレの用意 |
③ガス遮断 | 調理できなくなった | 加熱調理不要の食料を提供 | ガス代替手段の準備 | 非常食の備蓄、カセットコンロの用意 |
④停電 | 照明がつかない | 懐中電灯で照らした | 停電時の検討 | 照明機器、乾電池の用意 |
電気や水道が止まった場合、自家発電装置の燃料や水の確保、トイレが使用できない場合の対応などが必要になります。見落としやすいのは、片付けや整理、清掃にも多くの人手と時間がかかることや、災害廃棄物の一時保管場所と処理・処分方法などです。
また職員が自宅へ戻れないまま数日間、帯同することも想定し、家族の安否や自宅の被害状況の確認方法、重要書類や金品・貴重品等に対する防犯対策などもシナリオに加えます。
*第二回まとめ*
シナリオを一通り描いたら、いったん整理し、緊急時に何を優先するか決めていきます。この「初動を固める」ことが福祉施設の災害対応力向上の最重要ポイントになります。次回、これについてご説明します。